題名

ある日、診察室で患者が医師に言いました。

特集2
方言の痛み表現を知る
コラム
01
所属
国立国語研究所
氏名
竹田 晃子

被災地からのSOS

 2011年度末に、医療現場向けの『東北方言オノマトペ用例集』という冊子を作りました。体調や気分を表すオノマトペ(擬音語・擬態語)について、青森県・岩手県・宮城県・福島県の方言を集めたもので、岩手県・宮城県・福島県の主な医療機関や公立図書館などに配布しました。
 きっかけは東日本大震災です。2011年の夏に、「被災地に支援に入った医療チームが患者の方言を理解できず、医療活動が滞っている」という話を聞きました。そこで、東北方言の手引きとして、これまで例のなかった方言オノマトペの冊子を作ることにしました。

平時でも起きていたことばの壁による問題

 全国で共通語化が進んだ現代では、日本人同士で言葉が通じないなどということはありえない、と考える人もいるかもしれません。しかし、現実には、「ことばが通じない」状況が、大震災の前からあったのです。調べてみると、ことばがわからないために本来の活動が阻害されるということは、医療現場だけでなく、消防や警察、自治体、国の機関、一般企業において、程度の違いはありますが、平時にも起きていることでした。
 その後に出版された一般向けの書籍によると、宮城県名取市の薬剤師が県外からの医療チームに加わって方言通訳として活動したり、石巻市で岐阜県の薬剤師が秋田県から参加した薬剤師に患者の方言を通訳してもらったりした事例があることがわかりました。方言通訳の役割を果たす人がいたために、円滑な支援が行われた事例です。
 一方で、ことばの壁になすすべのない支援者もいました。前・岩手県立大船渡病院長の八島良幸氏は、「関東からの災害支援ナースが病棟支援に入ったときには、入院患者と一対一になり、話が全く理解できず、困り切ったという話も聞きました。」と述べています。同様の話は、多地域から応援に駆けつけた医療関係者からも聞かれました。

 

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