題名

ある日、診察室で患者が医師に言いました。

特集2
方言の痛み表現を知る
コラム
01
所属
国立国語研究所
氏名
竹田 晃子

方言に見る痛みの表現のバリエーション

 診察室で、患者が医師に言いました。 「はらがぼっけーにがる。」…腹がぽっこりと膨らむ?いいえ、違います。「腹がとても痛い」という意味です(広島県福山市)。
 次は宮城県気仙沼市の診察室です。患者が言いました。 「かだーずぃやらずぃやらやめでわがんねぁのす。」…固くてズルズルして分からない?いえいえ、「肩がズキズキと痛んでだめなのです」という意味です。
 方言には、痛みを表す表現が、共通語に比べて豊富に存在しています。共通語では「痛い」「痛む」以外の表現はほとんどありませんが、方言にはたくさんの語形が使われています。ざっと調べてみると、「いきる」「いばる」「うずく」「うばる」「おばる」「おっちー」「こわる」「さす」「しむ」「しみる」「しわる」「ずいつく」「せく」「せつない」「つつく」「つまくる」「つめる」「にがる」「はしる」「ひらつく」「ひらめく」「ほとびる」「ほめく」「やむ」「やめる」など、実にさまざまな語形があります。各方言でこれらすべての語形を使っているわけではありませんが、それぞれの語形は方言によって使い方が決まっています。

語形が示す痛みの場所

 これらの語形は、各地でどのように使われているのでしょうか。たとえば、次のように、語形で痛みの種類や症状が特定される場合があります。

うずく 身体の内部が激しく痛むこと。近畿・中国・四国・九州地方の方言。
つつく 歯が痛むこと。中国・四国・九州地方の方言。
せ く 胸や腹がしめつけられるように痛むこと。腹痛の場合は下痢の症状を表すこともある。中国・四国・九州地方の方言。
ずいつく 錐でもむように痛むこと。高知県の方言。
はしる 染みて痛むこと。富山県・岡山県などの方言。
ひらつく/
ひらめく
皮膚がひりひりと痛むこと。秋田県・富山県・九州地方東部・鹿児島県などの方言。
ほめく 発熱して痛みがわき起こること。中国・四国地方などの方言。
やむ/
やめる
身体の内部が継続的に痛むこと。東北・関東・中部・近畿地などの方言。

 実は多くの方言で、痛む場所が身体の表面か/内側かによって語形を使い分けています。このような区別は、共通語にはない区別です。
 たとえば、中国地方の方言では、「はしる」は身体の表面が痛むこと、「にがる」は身体の内部が痛むことを表しており、痛みの種類が区別されています。他にも、秋田県の方言では、「ひらめく」は表面、「やむ」は内部が痛いことを表します。この「やむ/やめる」の類はかなり広い地域で使われています(図参照)。

資料:『日本方言大辞典』『日本方言辞典』『現代日本語方言大辞典』など
 

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