COLUMN04
題名

日本語の歴史とオノマトペ

著者
小野 正弘 (明治大学文学部 教授)

 日本語のオノマトペは、とても古くからあります。日本最古の文献に属する『古事記』(712年成立)から、『日本書紀』『万葉集』などといったよく知られた書物にも見つけられます。たとえば、『古事記』には、その冒頭から、国を生み出そうと塩の海を鉾でかき回したときに、「こをろこをろ」という音を立てたという描写があります。また、『万葉集』にも、鼻水をすする音「びしびし」が載っています。オノマトペは、日本語の歴史とともに存在しているわけです。
 なぜ日本語には、オノマトペが発達してきているのでしょうか。これには、さまざまな説明が考えられますが、その一つとして、日本語が、深い情感を表わす語を好むという特質を考えることができるのではないでしょうか。古くは、「あはれ」「をかし」から始まり、「わび」「さび」「粋(いき)」にいたるまで、日本語(日本人)は、深く心にしみわたるような情感を表わす語を好んできたという事情があります。逆に言えば、がちがちの理屈はちょっと苦手で、それを補うために、論理をきちっと表わす漢文や欧米諸外国語の習得をして、日本語に取りこんでもきたわけです。
 オノマトペは、実感を伝える力の大きい言葉です。手触りを表わすオノマトペを、「さらさら」「ざらざら」「つるつる」「ぬるぬる」「ねっとり」などと並べてみますと、これらのオノマトペを使っただけで、感触が直接的に伝わってきます。どんなに普通の言葉を論理的に組み合わせても、これらの4文字にはかないません。
 「あはれ」「をかし」「わび」「さび」と、「さらさら」「ざらざら」「つるつる」「ぬるぬる」「ねっとり」。一方は、よそ行きで高尚、もう一方は、日常使いで庶民的といった違いはあっても、情感豊かな言葉という、根っこの部分は同じなのではないでしょうか。