COLUMN02
題名

音なきものに音を聞く「擬態語」

著者
小野 正弘 (明治大学文学部 教授)

 オノマトペとは、「擬音語」と「擬態語」を総称した言いかたです。「擬音語」とは、物音や動物の鳴き声など、人間の発声器官以外のものから出た音を、人間の音声で模倣したものです。波の打ち寄せる音「ザブン」や、馬のいななき「ヒヒーン」がそれに当たります。このような音を模倣するタイプのオノマトペは、実は、世界の多くの言語で指摘できます。耳に聞こえる音を、口から出す音で模倣するというのは、言語行動としてごく自然だからです。
 ところが、「擬態語」、すなわち、あるものの様子や心の動きを、音に変換したものは、言ってみれば自然とは言えません。「音なきものに音を聞く」からです。なにか、禅問答のようでもあります。からだがひどく疲れ切って、まっすぐに立っていられない状況、を考えてみましょう。その疲れた体から、「ふらふら」という音など聞こえてはきません。しかし、日本語では、「ふ」と「ら」という音を使って、その状況を描写しているわけです。これは、日本語を当たり前に使っているひとびとにとっては体にしみついたごく普通のことなのですが、考えてみると、ずいぶん不思議なことをしているわけです。
 この「擬態語」というタイプの語彙が、組織的に発達しているところが、日本語の大きな特徴のひとつです。日本語のほかに擬態語が発達している言語としては、韓国語を挙げることができます。しかし、韓国語で「音なきものに音を聞く」場合は、日本語とは、また違うようです。たとえば、「パルパル」。どんな状況を表していると思いますか? これは、お湯がぐらぐらと沸き立つ様子を表しています。「お湯がパルパル沸いてるから」などと言われても、日本語の感覚だと、たいした温度ではないと思ってうっかり手を入れて、やけどしそうです。「音なきものに音を聞く」ときの、言語による音感覚の違いが見えてきそうです。